2019の凱旋門賞は、エネイブルのための祭典でした。
フタを開ければ女王は破れ、観客の悲鳴が響きわたりました。エネイブルは、なぜ負けたのか?
ゴスデン調教師の分析や複数のジョッキー談話、レースラップの資料をもとに敗因を探ってみました
ゴスデン調教師の分析
レース直後のインタビュー内容
いつもは落ち着きはらった師が、動揺を隠せず表情は悲痛です。※動画表示がない場合は、2.3回クリックすれば画像が出てきて、師の肉声が再生されます。
"We were beaten by a better horse on the day in the conditions."
💬 John Gosden reviews #Enable's run in the Arc. 💬 pic.twitter.com/IAIwyn1xYB
— World Horse Racing (@WHR) October 6, 2019
エネイブルの敗因は2点
- 重馬場と雨の追い打ち
- 速いレース展開
そして、我々より馬場耐性に優れた一流の馬に差された、ということだ。
レース前、雨が落ちたのは悲劇だった。雨と厳しい状況下のハイペースが、エネイブルの最終兵器、ラスト400メートルの素晴らしい脚の回転を奪った。
この日この状況に勝る馬に敗北した。彼女は最後の100メートルで力尽きたが、走りは素晴らしかった。彼女を誇りに思っている。
昨年のような稍重馬場での2着なら、肩を落としただろう。しかしブリリアントな勝ち馬から受けた不意打ちだ、何も思うところはない。
今年のキングジョージを振り返ると興味深いだろう。ヴァルトガイストも、最後まで残った馬だった。
凱旋門賞当日の馬場状態
馬場状態:Tres souple 不良よりの重 ペネトレ数値4.1
降雨量:過去24時間3.5ミリ 14時までに1ミリの予報
降雨量:過去24時間3.5ミリ 14時までに1ミリの予報
日本馬も脚を失いました。エネイブルは道悪巧者ですが、重すぎてもスタミナが奪われると、陣営の心配の声が聞こえていました。
騎手たちの証言
フランキー・デットーリ騎手
読みどおりの展開で、強い流れの中よい位置どりができてた。ペースを抑えたので馬も楽だった、最後の100ヤードで勝ち馬が来るまで、何もかも上手く行っていた。これ以上の手応えはないくらいだったんだ。マジカルよ粘って仕掛けて来いと願ってたら、ソットサスが追いついてきて、(残り400のところで)行かなくちゃいけなくなった。
ヴァルドガイストが加速し、こちらは出来なかったのが違いだ。
あの馬が行きエネイブルが止まった原因は、馬場だ。良馬場だったら先着してた。
ライアン・ムーア騎手
ゴスデン調教師のインタビューに、ジャパンの鞍上ムーア騎手の証言もありました。ヴァルトガイストは登りのてっぺんでも下りでも、全然行ってなかった。ハイペースに苦しんでいるように見えた。
坂をおりたファルス直線のあたりまで、ヴァルトガイストの走りはゆっくりです。作戦か素か?
これが一番の謎でした。ブドー騎手はインタビューで次のように語っています。
ピエール・シャルル・ブドー騎手
信じられない、幸せ過ぎる喜びを爆発させた26歳のブドー騎手が、後日インタビューで、レースを回想しています。
流れについていくのに苦労したよ、馬が進まず僕も追わなかった。ファルスに差し掛かったとき、彼のスタミナが戻ってきたのが分かったんだ。最後は素晴らしく伸びてくれた
作戦というよりは、素でした。スローなフランス競馬に慣れたヴァルトガイストは、英愛勢のスピードについていくのが難しかったようです。皮肉なことに、それが吉と転じました。
凱旋門賞レースの展開
コースの高低差と展開の動向を図にしました。ハイペースの犯人は俊足ガイヤース
ゲートが開くと、外枠のガイヤースが加速しながら前へ出ていきます。ゴドルフィン・ブルーの勝負服が鮮やかな速い馬です。
奇しくも、すべての馬の最速ラップは最初の200メートルで刻まれています。
このときフィエールマンは3番手で追走し、1800メートル手前でガス欠。
少し先でガイヤースが失速して行くと、2000メートルまでは、アイルランド最強女子マジカルのターンです。が、残り400メートルで彼女もいっぱいいっぱい。
そこを、エネイブルが抜き去っていきました。追いつくソットサス。ここからは、デットーリ騎手が証言するとおりです。
区間ラップで検証
こっそり置いておきます。関心がある方は+から開けます。ソフト馬場のロンシャンでは
- エネイブルほどの馬でも激しく消耗する
- あがり最速38.08秒
- ラスト3ハロン、3区間すべて12秒台は勝ち馬だけ
- 飛ばす馬はスルーして、道中はスタミナ温存がベター
区間ラップがこんな教訓を告げています。
エネイブル現役続行
カーリッド・アブドラ殿下の決断
引退か再チャレンジかは、馬主のプリンス・カーリッドが決めることだ。エネイブルのフィジカルと精神面をみて、殿下が決定を下す~ゴスデン師~
今年は参戦の予定なし、来年のスケジュールは未定。目標はただひとつ。来年の凱旋門賞を走り3個めの王冠を手にすることです。
「エネイブルの血統」ヨーロッパの頂点を目ざす近親配合の最高傑作
「私が調教した牝馬の中でベスト」ロイヤルヒロインやタグルーダやなど歴史的名牝を育てたゴスデン調教師は、そう言い切ります。 2459ものレースに調教馬を送りこみ、勝率25%に接近する名トレイナーが絶大な信頼をおくエネイブルは、欧州の最重...
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